東京高等裁判所 昭和33年(ラ)530号 決定
(一) 先ず抗告理由第一について案ずるに、東京地方裁判所昭和三十三年(ワ)第一、七七〇号建物収去、土地明渡、損害賠償請求訴訟事件の記録を精査すると、右事件は裁判官岡部行男が担当し、昭和三十三年五月二十一日午前十時の第一回口頭弁論期日の呼出状は同年四月十七日抗告人両名に送達せられたが、この期日には、被告(抗告人)等はいずれも出頭せず、被告(抗告人)朴基沫より右口頭弁論期日変更申請書を提出したので、原告代理人が出頭したに拘らず、岡部裁判官は右期日を変更し、直ちに次回口頭弁論期日として同年七月二日を指定し、その期日呼出状は被告(抗告人)朴には同年五月二十四日、被告(抗告人)金本には同月二十八日には夫々送達されたこと、青柳盛雄、青柳孝夫の両弁護士は同年七月二日付被告等の訴訟委任状と共に、両代理人は当日別事件の公判又は現場検証に立会わねばならず又受任後日なお浅く十二分に準備ができないという理由を記載した口頭弁論期日延期願と題する書面(但し疏明書添付なし)を提出し、右期日に出頭せず、被告(抗告人)等本人も出頭しなかつたので、前記岡部裁判官は、出頭した原告代理人に右延期願が提出されている旨を告げたところ、同代理人は右延期に同意出来ない旨述べたので、同裁判官は右(期日変更)の申立を却下したことがいずれも明かである。思うに民事訴訟においては、本質的口頭弁論を基礎として裁判をするのが本則ではあるが、一方訴訟促進の要請の見地から必ずしもこの本則を貫かず当事者が懈怠すれば本質的口頭弁論の基礎の上に立つ裁判を受ける利益を失う場合があることを警告している。そしてこのことは抗告代理人も亦これを認めるところである。当事者の主張をつくさせることと訴訟の促進との調和をどこに見出すべきかは民事訴訟法第百五十二条第四項第五項の解釈をめぐつて常に問題となる。裁判官の会同、弁護士会代表との協議等を幾度か重ねてできあがつた東京高等裁判所訴訟手続準則の第二十八条第二号には「期日が切迫してから訴訟委任を受けたため事件を調査する余裕がないこと」その他期日変更の理由とすることができない事例をあげ又同準則第二十七条には期日変更の理由は疏明しなければならない旨を定めている。このことは一般法曹人の周知するところであろう。この準則の法的拘束力又は規定内容の妥当性についてはしばらくおき、又岡部裁判官が右準則を根拠としたものであるか否かはしばらく論外として、口頭弁論期日延期(変更)申請については前記調和の問題に関連し、実務家の間に一般論として種々論議されているのであつて、抗告人のこの点に関する主張と相反する見解を抱く者は決して一、二に止らないのであるから、岡部裁判官が前記延期(変更)申請(理由の疏明を欠く)を却下したというだけで公正を防ぐべき事情があると認めることはできない。なお同裁判官が原告代理人の不同意の意見又は相手方が明治神宮であることに特別な影響をうけて右却下決定をしたことを看取するに足る資料がない。
これを要するに論旨は延期(変更)申請の取扱について右に異なる立場に立ち原決定を非難するもので採用し難い。
(二) 次に抗告理由第二について考える。前記記録によれば岡部裁判官が前示延期(変更)申請却下の後、引続いて原告代理人に弁論を命じ、弁論を終結したこと、および抗告人等代理人は同年七月十四日附口頭弁論再開申請書を提出して再開を申請し、更に同日附で仔細な答弁書を提出していることが明らかである。然し弁論の終結並びにその再開は裁判所が各個の場合にあたり、諸般の事由を斟酌し自由に決定すべきものであつて、当該裁判官が前記却下決定のあと判決に熟すると認めれば直ちに弁論を終結することは何等妨げないものと云うべく、岡部裁判官が抗告人等の再開申請を容れなかつたのは抗告人等の主張する諸事情を無視し、偏頗な取扱いをしているものであることを認めるに足る資料がない。
従つて右弁論を終結し、又その再開を許さないというだけで他に特段の事情の認められない本件において、直ちに同裁判官が不公正な裁判を為すおそれがあるものとは看做し難い。故にこの点に関する論旨も理由がない。
(梶村 岡崎 堀田)